令和5年(2023年)10月1日より消費税についてインボイス制度が開始されます。
インボイス制度とは何か皆さんご存じでしょうか。
ほとんどのかたは何となく嫌な制度が始まるらしいけど、よくわからないというのが実情ではないでしょうか。
事業を営むかたにとって非常に重要な制度なのですが、実感としてはあまり認知されていない感じがします。
そこで今回はインボイス制度とその開始前にしなければならないことを書きたいと思います。
🔲インボイス制度とは?
インボイス制度とは簡単に説明しますと、消費税の課税事業者(=消費税の申告義務がある者)が消費税の申告をするにあたり、売上に係る消費税から経費に係る消費税を控除した金額を納付することになりますが、この経費に係る消費税を計算するにあたって、現行では免税事業者(=消費税の申告義務がない者)に支払った経費も控除の対象となっていますが、インボイス制度導入後はインボイス発行事業者に支払った経費で、かつ、インボイスを受け取らないと、経費に係る消費税を控除することができなくなるというものです。
※消費税の課税事業者が簡易課税により申告する場合を除きます。
※インボイスとはインボイス制度に対応した納品書、請求書及び領収証等と考えてください。
※インボイス発行事業者とは、税務署にインボイス発行事業者として登録した事業者です。
なお、消費税の課税事業者でないと登録することはできません。
☆誤解を与えるのを恐れずに、もう少し大胆に簡単に説明してみます。
御社(甲社)は消費税の申告義務があるとします。
当期に商品をA社から1,100円(うち消費税100円)で仕入れ、それをB社に1,650円(うち消費税150円)で売りました。
甲社が納付する消費税額は、現行の計算では
①売上に係る消費税 150円 ー ②経費に係る消費税 100円 = ③納税額 50円となります。
A社が課税事業者であるか免税事業者であるかを問わず、経費に係る消費税100円を控除することができます。
ところが令和5年(2023年)10月1日以降、A社がインボイス発行事業者でないと、経費に係る消費税 100円を控除することができなくなります。
これがインボイス制度です。
🔲どういう対応が必要なの?
〇御社が免税事業者である場合
令和5年(2023年)10月1日以降、御社が免税事業者である場合(=消費税を申告しない場合)は、関係ない制度と思われるかもしれませんが、御社の売上先が課税事業者である場合(=消費税を申告する場合)は関係する可能性があります。
売上先が消費税の申告をするにあたり、御社に支払った経費に係る消費税を控除することができなくなる(=売上先にとって納税額が増える)からです。
そうなると免性事業者である御社との取引を止めて、インボイス発行事業者である他社との取引を始める可能性があります。
したがって、御社が免税事業者である場合はインボイス発行事業者になるかどうか検討する必要があります。
☆簡単に説明してみます。
先ほどの例で御社がA社で、かつ、免税事業者だとします。
売上先の甲社が消費税の申告をするにあたり、仕入先のA社はインボイス発行事業者ではないため、
甲社の納税額は①売上に係る消費税 150円 ー ②経費に係る消費税 0円 = ③納税額 150円となります。
よって、先ほどの例と比べて甲社は納税額が増えますので、免税事業者であるA社ではなく他の事業者との取引を考える可能性がでてきます。
したがってA社は、そのまま免税事業者のままでいるか課税事業者(=インボイス発行事業者)になるか検討する必要がでてきます。
〇御社が課税事業者である場合
令和5年(2023年)10月1日以降、御社が課税事業者である場合はどうでしょうか。
売上側としての立場から考えれば、消費税を申告する義務があることには変わりがありませんので、税務署にインボイス発行事業者として登録し、インボイスの発行に対応(=請求書や領収書等について、所定の書式に変更)していただければ大丈夫です。
むしろ重要なのは経費の支払者としての立場から考える場合です。
経費を支払う場合、インボイス発行事業者に経費を支払わないと、消費税の申告で経費に係る消費税を控除することができなくなります。(=消費税の納税額が増えます)
※消費税を簡易課税により申告する場合を除きます。
☆簡単に説明してみます。
先ほどの例で、御社が甲社だとします。
消費税の納税額を計算するうえで、仕入先であるA社がインボイス発行事業者であれば経費に係る消費税を控除することができますが、免税事業者であれば消費税を控除することができません。
したがって、事前にA社がインボイス発行事業者かどうか確認しておかないと、思わぬかたちで納税額が増えることとなります。
🔲インボイス発行事業者になるには
令和5年(2023年)10月1日からインボイス発行事業者になるためには、令和5年(2023年)3月31日までに税務署に申請書を提出する必要があります。
また、インボイスの発行に対応できるようにする必要があります。
🔲激変緩和措置とは?
令和4年(2022年)11月17日に、中小企業者に対して激変緩和措置を政府が検討しているとの報道がありました。
現時点(11月18日時点)での情報ですと、
〇1万円以下の領収証については、インボイス発行事業者以外の事業者から購入したものについても消費税の申告上控除できるようにするようにするのではないか、というものです。
先ほどの例で、御社が甲社だとします。
A社から購入した金額が1万円以下ですので、A社はインボイス発行事業者かどうかを問わず
甲社の消費税の申告は
①売上に係る消費税 150円 ー ②経費に係る消費税 100円 = ③納税額 50円となります。
つまり、A社が免税事業者で、かつ、A社の1取引の売上が常に1万円以下であれば、インボイス発行事業者にならずに免税事業者のままでいいということになります。
該当する免税事業者にとってメリットがありますが、消費税の申告者にとってもメリットが大きいと思います。
少額の領収証の相手先がインボイスの発行事業者かどうか、事前に確認する手間が省かれることになりますので。
〇現時点で具体案が出てるのは上記のものですが、最初の報道では「インボイス制度導入で新たに消費税を納めることを選んだ中小企業者に対して税負担を和らげる措置の導入の検討」とありますので、これ以外にも何か出てくるのではないかと思っております。
報道されれば追記したいと思います。
(追記)
インボイスの激変緩和措置について追加の報道がありました。
インボイス発行事業者の届出書を提出したことによりインボイス制度の開始時期(令和5年10月1日)から課税事業者となった者で、かつ、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の者については、納税額を売上に係る消費税額の20%にするというものです。3年間の時限措置です。
う~ん、という感じですね。
消費税の申告書の記載方法がわからない人にとっては簡単になっていいかもしれませんが…。
🔲その他
・免税事業者が消費税の課税事業者の選択届を提出した場合、通常は翌課税期間から課税事業者となります。
今回は特例で、令和5年3月31日までにインボイス発行事業者として税務署に登録した場合、期中であっても令和5年10月1日から課税事業者(=インボイス発行事業者)となることができます。
個人の場合、令和5年ですと1月1日~12月31日が課税事業者となるのではなく、1月1日~9月30日は免税事業者、10月1日~12月31日は課税事業者(=インボイス発行事業者)となることができます。
・インボイス発行事業者として登録している限り、2年前(法人の場合は2期前)の課税売上高が1,000万円以下となっても消費税の申告義務があります。
・インボイス発行事業者は公表されます。
・消費税の課税事業者は、消費税の申告にあたり経費に係る消費税を控除するには、インボイス発行事業者からインボイスを受け取ったものでなければならないと書きましたが、経過措置があります。
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間に支払ったものについては、支払先がインボイス発行事業者でなくても(=つまり支払先が免税事業者であっても)80%を控除することができます。
また令和8年10月1日から令和11年9月30日までの間に支払ったものについては、50%を控除することができます。
・消費税の課税事業者(簡易課税を選択している場合を除く)は、支払者としての立場から考えた場合、支払先がインボイス発行事業者であることを確認して取引しないと納税額が増えます。
しかし、不動産の家賃などで大家さんがインボイス発行事業者でない場合は、引っ越さない限りどうしようもないですね。
・「インボイス」の正式名称は「適格請求書」です。
・「インボイス制度」の正式名称は「適格請求書等保存方式」です。
・「インボイス発行事業者」の正式名称は「適格請求書発行事業者」です。
・「申請書」の正式名称は「適格請求書発行事業者の登録申請書」です。
・上記の説明はわかりやすくするため、簡略化しております。(必ず法令等をご確認ください。)
🔲インボイス制度についてお知りになりたい場合、ぜひご相談ください。(要相談料)
※当事務所との顧問契約を結んでいただく場合は相談料は無料です。