最近、ネットニュースや新聞の記事でよく、「ある日税務署から税務調査の連絡が来て実地調査の結果、『家賃の支払時に源泉徴収をしていなかったので、源泉税○百万円支払ってください。』と言われた。
そんなシステムは全く知らかなったので驚いた。」
というのを見ます。
また、最近はその税務調査が増えているとも書かれています。
一般的に家賃を支払うときに所得税を源泉徴収しないと思いますがどういうことか、今回書いていきます。

〇所得税の源泉徴収とは
 一定の経費等の支払いをするときに、支払者が所得税を天引きして支払う制度です。
 この天引きされた所得税を源泉税といいます。
 天引きした者は、天引き後にその源泉税を国に納付します。
 天引きされた側は、確定申告書を提出するときに、算出した税額からその源泉税を控除します。
 サラリーマンですと、給料をもらう時に源泉税が天引きされるのでイメージがしやすいと思います。
 
 
〇なぜこのような制度があるのか
 支払いを受けた側が確定申告をしない可能性があるため、国が税金を取り逃さないようにするためです。
 もうひとつは、給与ですと源泉徴収制度があることにより、支払を受ける側(=サラリーマン)の所得税が年末調整により精算されるため、確定申告書を提出する必要がなくなるのでサラリーマンと国(=税務署)の手間が省けるというメリットがあります。

〇家賃の支払いに係る源泉徴収義務
 ここからが今回の本題ですが
 一定の場合には、家賃の支払時に源泉税を徴収して国に納付しなければなりません。
どのような場合でしょうか。
(要件1)貸主が非居住者又は外国法人であること
(要件2)借主が家賃を支払うこと
 ※ただし借主が個人で、借主自身やその親族の居住用の家賃を支払う場合は対象外(=源泉徴収不要)です。


〇どのようなケースが該当するか
 要件1については、そのままですが貸主が非居住者等である場合です。
 注意しないといけないのは、入居時は貸主が居住者だったけど、貸主が非居住者等に部屋やビルを売却したことにより貸主が非居住者に変わった場合です。
 また、非居者は一般的には外国の人が該当することが多いですが、日本人でも該当する場合があります。海外赴任中のサラリーマンが日本に持っていた家を貸出す場合は、貸主が非居住者に該当します。


【参考条文】所得税法第二条
三 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。
五 非居住者 居住者以外の個人をいう。
六 内国法人 国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。
七 外国法人 内国法人以外の法人をいう。

 

 要件2については、個人事業者が店舗や事務所の家賃を支払う場合などや、法人が家賃を支払う場合などです。
 注意しないといけないのは、法人には居住用の例外はありませんので社宅の家賃を支払う場合も源泉徴収の対象となります。

 

 不動産仲介会社を通して賃貸借契約を交わしている場合や不動産管理会社を通して家賃を支払っている場合は安心できるかというとそういうわけでもありません。担当者が制度を知らないことや見落とすことがあります。不動産会社にも税理士がついているだろうと思われるかもしれませんが、契約の内容自体については税理士は関与しないので契約前に税理士に相談をしないと税理士も契約について知らない又は気づかないでしょうし、税理士自身も源泉徴収制度については不得手なかたは多いと思います。

〇なぜ税務調査が急増しているか
 円安で外国人が日本の不動産を購入することが増えているのが要因の1つのようです。(実際、顧問先からもよく「隣のビルが外国人に買われた。」と聞くことがあります。)
 国税局は調査手法については常に新しい方法を考えており、有効だったものは管内に広めていきます。ですので新聞に記載されていたようにこの源泉徴収漏れについて有効だったため税務調査が急増していたとしても不思議ではありません。
 (支払者が個人の場合は収支内訳書や青色決算書に家賃の支払先や用途を記載しますし、法人の場合も勘定科目内訳書に同様のことを記載します。その支払者の源泉税の納付実績はKSKで簡単にわかりますので、事前調査で内部資料だけである程度の調査税額まで把握できます。簡単に非違事項をつかめるというのも税務署にとっての利点だと思います。)

☆もしこれから物件を探す場合は、上記のことを念頭に置いておいてください。
 既に借りている物件が上記に該当していれば、税務署や税理士に相談してお早目に納税することをおすすめいたします。
 

(注)わかりやすくするため、源泉徴収義務や家賃の源泉徴収の説明等については簡略化して一般的なケースで書いております。必ず条文等をお確かめください。